当該記事は削除されました

川を越えちゃった人の話


所謂悪事を一度働いたことのある人間は、他の人間に比べて

その行為に対する罪悪感、拒絶反応が薄れるという物

本人の価値観と周囲の価値観にズレが生じてくる説

現に出所者の再犯確立は40%を超えると言われている

酷い時では48%等、実質出所者の半分は再び犯罪に手を染めているのだ

これは元来その人間が持つ本質だと捉える事も出来るかもしれない

しかし私はこの説を提唱したい、何故なら人間は自己を正当化する生き物だからだ

他人のその行為に対して冷ややかな目で見つつも、いざ自分がその行為を

行う事になれば正当化してしまった経験は無いだろうか。


例えば遅刻、電車が遅れたのが悪い、道路が渋滞しているのが悪い

そもそも出社時間がこんなに早いのが悪い・・

このような具合で人は保身に走る。

自己を正当化した結果、その行為に対しての罪悪感が薄れていくのだ

煽り運転を繰り返す輩の言い分はこうだろう、チンタラ走っている方が悪い

強姦魔の言い分はこうだ、誘惑するような恰好をしていた相手が悪い

イジメをする人間は?イジめられるような人間が悪い

芥川龍之介羅生門はこういった人間が持つエゴイズムを鋭く描写している。

と、いう訳で今回は芥川龍之介夏目漱石のお話です。

 

芥川龍之介夏目漱石が師弟関係にあったという事実を最近になって知った。

最も、夏目漱石は弟子を取っていた訳ではなく

先生と生徒のような関係に近かったらしい。

芥川龍之介も手紙で夏目漱石を先生と呼んでいる。

実際に教員として働いていた事もある夏目漱石の元には

教員時代の教え子や漱石を慕う文学者が集まって賑わっていたそうだが

あまりにも来客が多いので、漱石家に来るのは木曜日だけという決まりが出来た

これが有名な木曜会

そういえば、街というゲームでは七曜会という架空の組織が描かれていた。

こちらの元ネタは木曜日だった男という小説みたいですが

 

兎に角、この木曜会は国内屈指の秀才が集結していた凄い場なんですが

そこにあの芥川も参加していたと

二人の関係は、芥川龍之介が大学時代(今の東大)に執筆した同人作品を

漱石がベタ褒めして手紙を送った事から始まるらしい。

あの芥川龍之介も始まりは同人誌だったと考えると胸が熱くなる

ちなみにその際、同人誌を共に執筆したメンバーもそうそうたる顔ぶれのようで

芥川賞を設立し、自身も菊池賞で知られる菊池寛等々がいます

(自分は無学なのでよく知らないが、いずれも歴史に名を残す偉人達)

当時既に人気作家であった漱石から直々に作品を褒められた芥川龍之介は大変喜び

小説家になった事にも大きく起因しているようです。

「夏目先生が大変鼻をほめて、わざわざ手紙をくれた。大変恐縮した。」とも書き残しています。

ちなみに漱石が芥川に送った手紙の中では

「ああいうものをこれから二三十並べて御覧なさい。

文壇で類のない作家になれます。」

と、その才能を高く評価しており、事実そうなりました。

 

僕が最初想像していたよりも二人の関係性は強かったようで

芥川が漱石に送った手紙には

「先生へ手紙を書くと云う事がそれ自身、我々の滿足なのですから」

とまで書かれています、尊い・・・

他にも漱石の葬式に参列した際の話や、漱石の家に行った際の話等を書き残している。

中学時代には、「我輩も犬である」と漱石のパロディ作品まで作っていた。

病弱だった漱石の死去により

二人の関係は1年も経たずに終焉してしまったようですが

何故か夏目漱石を慕う芥川龍之介の姿を想像すると嬉しくなる

「僕は芸術的良心を始め、どう云う良心も持っていない

僕の持っているのは神経だけである」

この一文を書いたのと同一人物だとは思えない。


また、二人の小説に対する価値観も似たような物があります。

二人とも小説はストーリーが重要なのでなく、あくまでストーリーは

美しい文章を書く為のオマケに過ぎない、と文体の美しさ等に重きを置きました。

これは漱石が書いた有名な草枕にて

「西洋の本ですか、むずかしい事が書いてあるんでしょうね」

「なあに」

「じゃあ何が書いてあるんです」

「そうですね。実はわたしにも、よく分からないんです」

「ホホホホ。それで御勉強なの」

「勉強じゃありません。只机の上へ、こう開けて

開いた所をいい加減に読んでるんです」

「それで面白いんですか」

「それが面白いんです」

「何故?」

「何故って、小説なんか、そうして読む方が面白いです」

といった作中の人物の会話でも表現されています。

僕は草枕を読んだ事が無いのですが、この話を見て猛烈に読みたくなりました。


芥川龍之介はストーリーが小説の良さを決定付ける物ではないと主張し

ストーリー派の谷崎潤一郎氏と対立し、執筆した『芸術的な、余りに芸術的な』にて

自身の小説に対する考えを発表しました。

タイトルの元ネタはニーチェ著作の『人間的な、あまりに人間的な』らしい。

僕は芥川龍之介の歯車という小説が大好きなんですが

これはまさに話らしい話のない小説であり

どちらかというと詩的な作品に仕上がっています。

アニメで言うところのSerial experiments lain


雑学コーナー

・真相は藪の中というように使われる「藪の中」という表現は

芥川龍之介の書いた『藪の中』という作品に由来する


夏目漱石が由来の造語が多いとされているが、実はそれ以前にも使用例があった

ただ、漱石が好んで使用した為に広まったとされている。

浪漫という当て字は漱石が考案した。

これと同様にI love youを月が綺麗ですねと訳したのも

記録に残されている訳でもなく、後世の創作とされている


芥川龍之介はとんでもない巨根だった


夏目漱石が作家として活動したのは僅か12年ほど


芥川龍之介は超ヘビースモーカーでゴールデンバット等を愛喫していた


夏目漱石の『こころ』は日本国内で二番目に売れた本で発行部数700万越え

ちなみに一位は黒柳徹子の『窓際のトットちゃん』800万越え


夏目漱石の長女は筆子という名前だが、これは母親の字が汚いから

綺麗な字を書けれるようにという願いを込めてつけられた

しかし母親以上に悪筆に育った。

 

最後に夏目漱石芥川龍之介久米正雄に送った手紙の一部を紹介します。

 

勉強をしますか。何か書きますか。

君方は新時代の作家になるつもりでしょう。

僕もそのつもりであなた方の将来を見ています。

どうぞ偉くなって下さい。

然し無暗にあせってはいけません。

ただ牛のように図々しく進んで行くのが大事です。

文壇にもっと心持ちの好い愉快な空気を輸入したいと思います。

それから無暗にカタカナに平伏する癖をやめさせてやりたいと思います。

是は両君とも御同感だろうと思います。

今日からつくつく法師が鳴き出しました。

もう秋が近づいて来たのでしょう。

私はこんな長い手紙をただ書くのです。

永い日が何時迄も続いてどうしても日が暮れないという証拠に書くのです。

そういう心持ちの中に入っている自分を君等に紹介する為に書くのです。

それからそういう心持ちでいる事を自分で味って見るために書くのです。

日は長いのです。

四方は蝉の聲で埋っています。