NIMAERD’

僕の父は大きな会社で社長をやっている。

働いている人もたくさんいて

この国中、あちこちに工場があるらしい。

だけど

僕が物心つく前に

父の会社で不祥事というのが起きて

僕の家には借金がたくさん出来た。


お金を借りすぎて、貸してくれる人がいなくなったと

嘆いた父は

お金持ちの集まるパーティー会場で

お金持ち達にお金を貸してくれと毎回のように頼み回っていた。

大概のお金持ち達は

「昔馬鹿みたいに羽振りが良かったお前がいまや乞食同然の事をしているとはな

食事がまずくなるから向こうに行ってくれないか」

と、父の事を散々馬鹿にした。

それでも父は健気にパーティー会場に通いつめた。

家族連れの方が哀れんでもらえると僕も連れて行かれた。

そんなある日

パーティー会場で

僕はとても綺麗な女の子を見つけた。

同じ年の友達がいなかった僕は

その女の子と友達になりたいと思った。

でも

それ以上に、僕は

その女の子の事を好きになってしまった。


女の子の側にはいつも女の子の両親がいて

しかもいつも父の事を馬鹿にする人たちだったから

僕はなかなか女の子に近づくことが出来なかった。

だけどある日、

女の子の側を両親が離れて

僕は今しか話しかけるチャンスはないと

勇気をふりしぼって女の子に話しかけた。

だけどいくら話しかけても女の子は口を開いてくれなかった。

もしかしたら親に僕と話をするなといわれているのかもしれない。

だけど僕は諦めずに話し続けた。


女の子はついに、僕に口を開いてはくれなかった。

僕は思い切って、こう言った。

「俺達、友達になろうよ。」

すると、今まで暗かった女の子の目が

急に輝き出して

「うん」

と言ってくれた。

とても嬉しかった

言葉じゃ伝えきれないほどに

僕はその言葉が嬉しかった。

僕達は友達になれたんだ。

また、逢えるんだ。


その時

女の子のお父さんがこっちまで来て

女の子を連れ出してしまった。

その場に残された僕は両親の所へと戻る事にした。

女の子ともっと話せなかったのは残念だったけれど

友達になれた事で僕は満足だった。

そういえば、名前を聞いていない。

次に会った時にあの子の名前を聞こう。

僕は堅く心に決めた。

そう思うと僕に生きる希望がわき始めた。

両親の所に向かう道のりもとても楽しく感じられた。

やっと見つけた父と母はとても深刻な顔をしていた。


父と母は、ついにパーティー会場に来る事を禁止された。

あの子の両親が、そうしたらしい。


お金を借りる当ても無い父の会社は、ついに、倒産した。

多くの工場と多くの従業員も無くなった。

あの子にも、もう会えない。

僕は学校にも行かせてもらえず、毎日街でアルバイトをして

自分の食費は自分で賄い

両親にも稼いだお金を渡していた。

そんなある日

貸家の狭いリビングで父と母が何か話しているのが聞こえた。

「クソ・・少し金が出来ればあの事業で・・・・」

「でもお金を借りる当ては無いし・・

何より自己破産までしているんだもの。もうどうしようもないわ・・。」

「・・一つ、方法がある。XXXを・・・」

「・・・それしか無いわよね・・XXXには、謝っても謝りきれないけれど・・」

わずかな声しか聞き取れなかったけれど

僕の事について何か言っているのは分かった。

とても悪い予感がしたけれど

この生活に心身共に疲れきっていた僕は

これ以上悩みを増やしたくなくて

現実から逃げるように布団にもぐりこんだ。


数日後

僕の家に誰か訪ねてきて

玄関先で父と母が話をしていた。

その様子をちらっと覗きにきた僕に気がついた両親は

僕を玄関の外まで無理やり引っ張り出した。

そこには、体の大きい大人の人がいた。

とても怖かった。

今すぐその場から逃げ出したかったけれど

僕は大人の人に持ち上げられ

家の前に止まっていたトラックの中に放り込まれた。

僕がそこに入ると、すぐに檻がしまった

何が何だか分からないまま、僕の心を恐怖だけか支配していた。

トラックの中には僕のような子供達がたくさんいて

全員体が震えていた。

トラックが走り出したので、僕は檻の隙間から外を覗いてみると

札束を抱え、嬉しそうにしている両親を見つけた。

ああ、そうか

僕は売られたんだ。


僕は変な施設に連れていかれ

そこで一旦降ろされると色々な検査をされて

首に番号のついたプレートをかけられて

トラックに乗せられた。

トラックの中にいる子供達は僅かに数が減っていて

皆もやはり、首にプレートをぶら下げていた。

勿論この年に似合う笑顔は誰も持ち合わせていなかった。

僕はやりきれない気持ちの中で

檻の隙間から、外を見た。


何気ない風景のそこに

あの女の子がいたのが見えた。


僕は、幻覚だと思い、首を横に思いっきり振って

もう一度そこを見た。

確かに、そこにあの子はいた

何故

何でこんな所にあの子が


女の子と目があった

女の子は一瞬とても驚いた顔をすると

顔を俯かせ、僕に何かを言った。

何度も何度も

何度も何度も何度も

その言葉を繰り返した。

検査の時に聴覚を破壊された僕には聞こえなかったけれど

唇の動きは

「ごめんなさい」

と言っていた。


僕は、溢れる涙を堪えて言った。

「好きだった」

けれどその言葉は走り出したトラックの騒音で

多分、女の子には届かなかったと思う。


僕は、女の子が「ごめんなさい」と言った時に分かった。

きっと、この仕事をやっているのはあの子の両親だって

そしてあの子はこの仕事を継がされるだろうと。


トラックは、僕の知らない地に辿り着いた。