妄想代理人に見るシュルレアリスムの技法


高らかに笑う作中の登場キャラクターが

次々と映しだされていく妄想代理人のOP映像。

 

 

 

キャラクター達の笑顔と裏腹に、この映像は見た物に不気味さや狂気を感じさせる。

何故なら、そのキャラクター達はおおよそ笑顔が

似つかわしくない状況に置かれているからだ。

靴を両手に持ち、ビルの屋上の隅に素足で立つ女性。

倒壊した家屋を後ろに、膝下まで冠水した地面に立つ少年。

辺りを埋め尽くすゴミ山の中に立つ女性。

巨大なキノコ雲を後ろに、塔の天辺に立つ男性。

誰もいないホテルの宴会場でテーブルの上に立つ老婆。

この状況と笑顔のミスマッチが、見る物に不気味さやシュールさを感じさせるのだが

これには「デペイズマン」というシュルレアリスムにおける技法の1つが

用いられている。

 

デペイズマン(Dépaysement)はフランス語で

「環境・居場所を変える」「居心地の悪さ、違和感」等を意味し

シュルレアリスムにおけるデペイズマンとは、関連性のない物を組み合わせたり

本来あるべき場所と異なる環境にその物を配置する事をいう。

これによって、驚きや不気味さ等を感じた観者に強い印象を残す狙いがある。

そして、デペイズマンは

「場所(配置)のデペイズマン」

「大きさのデペイズマン」

「時間のデペイズマン」

「材質のデペイズマン」

「人体のデペイズマン」と

主に5種類に分類される。


デペイズマンを用いた代表的な画家の一人で

私が敬愛するルネ・マグリットの作品を例にだすと

「ゴルコンダ」という作品では、まるで雨のように

空中に山高帽を被った大量の紳士が描かれている。

 

 

同じ背格好の紳士が大勢いるという状況その物も印象に残る不思議な光景だが

空中という通常あり得ない場所に直立姿の人が描かれている事から

これは場所のデペイズマンといえるだろう。

 

 

「リスニング・ルーム」という作品では、部屋の中に青リンゴが描かれている。

それだけでは普通の光景だが、この青リンゴは

部屋を埋め尽くす程巨大に描かれているのだ。

 

 

本来の大きさからかけ離れた大きさでその物を描く

これは大きさのデペイズマンである。

ちなみに、マグリットは他作品でも青リンゴをよくモチーフに用いており

The Beatlesが設立したレーベルであるアップル・レコードの

ジャケットにも青リンゴが描かれているのだが

これはマグリットの作品に影響を受けた物といわれている

ポール・マッカートニーマグリットの絵を所蔵している)

 

 

 

また、「光の帝国」という作品では、画面上部には明るい空が描かれているのに

画面下部に描かれている家と木々は、まるでそこだけが夜かのように暗く

明かりまで灯されている。

 

 

これは異なる時間帯の風景が組み合わさった時間のデペイズマンで

不思議さや違和感に加え、神秘的・幻想的な印象を観者に与えている。

 

 

「旅の思い出」では、色・質感共に石のような巨大な果実が描かれている。

 

 

これには、大きさのデペイズマンに加え

形は変えずに、その物の材質を変えるという材質のデペイズマンが取り入られている。

また、サルバトール・ダリの代表作である

「記憶の固執」にもこの手法が使われていて

本来硬い材質で出来ている筈の時計が、置かれた場所に合わせて

グニャグニャと変形してしまっている。

 

 

 

波打ち際に、上半身が魚で下半身が人間という不気味な生物が

打ち上げられている「共同発明」は

その不可解さから、まさにシュールな作品になっていて

私が特に好きな作品の1つでもある。

 

 

これは身体の一部を、別の生き物や無機物に変える人体のデペイズマンに該当する。

 

 

こうして分類されているデペイズマンだが

一言で「不自然な組み合わせ」という言葉に要約出来る。

大きさのデペイズマンにしても、大きさの比較対象となる物も一緒に

描かなければ表現が出来ない。

例えば、リスニング・ルームでは、部屋を描き

その部屋を占める1つのリンゴを描く事でリンゴの大きさを表現していて

「部屋」と「巨大なリンゴ」という組み合わせで構成されている。

つまり、デペイズマンは1つのモチーフだけでは成立しない。

材質のデペイズマンにしても、1つのモチーフに2つ以上のモチーフが内包されている。

旅の思い出は「石」と「果実」の組み合わせで構成されている。

 

これを踏まえて妄想代理人のOP映像を考える。

マグリットの作品で描かれているのは、現実世界ではまずあり得ない光景であるが

妄想代理人のそれは、一部を除きあり得ない光景とまでは言えない。

しかし、キャラクター達が高らかに笑っている状況の不自然さ

このデペイズマンが視聴者に狂気や異常性を感じさせている。

「凄惨な光景」と「笑顔の人物」という不自然な組み合わせ。

つまり、妄想代理人は場所のデペイズマンを用いていると言えるだろう。

ところで、異なる物を組み合わせるという点では

コラージュも同様の物であるが

シュルレアリスムでもコラージュは盛んに取り入れられており

コラージュとシュルレアリスムは親和性が高い。

つまりクソコラもシュルレアリスムなのだ(クソみたいな結論)

 

 

 

ちなみに妄想代理人のOPがシュルレアリスムを意識して

作られた物かどうかは知りません