三条京阪駅前午後黒物語

スカイプの続き


思わず彼女が取り出したタバコに目が映る

『COHIBA』

私は顔にこそ出しはしなかったが驚きを感じた

多少タバコに詳しい人ならば分かるだろうがCOHIBAとはキューバの高級葉巻ブランド

葉巻のブランドとして名をはせているが紙巻きタバコも販売している

まさに彼女が目の前で燃焼させているタバコだ

しかし通常のタバコの葉ではなく、黒煙草という葉を使用しているため匂いは独特

更に扱っている店が少ない事もありこれを吸う人は限られる

女性ならば尚更だろう。


辺りはすっかり彼女の黒煙草の匂いに満たされてしまった

私はコソコソと彼女を観察するのをやめ、自分の時間を楽しむ事にした。

タバコを口に咥え京都の街並みを見降ろし何も考えずに肺に煙を取り入れて解き放つ。

しかしすぐ隣に見知らぬ女性がいるという事実からどうも落ちつかない

加えて彼女が漂わせるかぎ慣れない黒煙草の煙が一層私の心に不安の影を落とした

私は心は狭いがパーソナルスペースは無駄に広い

むしろ心の領域をパーソナルスペースが占めてしまっているのかというぐらいで

見知らね異性と隣の席というのは私にとって堪え難い苦痛だった

食事というのはこんなに苦痛な行為だっただろうか

高品位粗食で満たした腹に煙を浸して安らぎの午後を迎えるつもりが・・

今では私は隣の女性を恨めしく思うようになってしまった。

そして彼女の事を『クロ』と仮称する事にした

上下黒のレディーススーツを見に纏い、プラダの黒のバッグに

吸っている煙草も黒煙草ときたものだ

更に髪も恐ろしく綺麗な黒髪のロング・ヘア

ここまで黒づくしだと本人も意識してやっているのだろうか?

もしかして身につけている下着も黒だったりするのだろうかと考えたら

私は思わず苦笑してしまった

その時、クロが私の方を向いた

笑ったのがバレてしまったか?

彼女の目は私を見据えている

隣の席にいる突然笑った見知らぬ誰かを見る様子ではない

私は気付かぬフリをして煙草を一吸いした

その時ー

ごきげんよう倉吉俊さん、ここ三条通りは午後13時を迎えたわ

混沌の午後の到来よ」

私は吸っていた煙を勢いよく吐き出し、むせた

声の主は他ならぬ、クロだった

ロクでもない事になりそうだな、と思わずにはいられなかったー








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