砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない

 

 

今回紹介するのは

桜庭一樹著の砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない

 

 

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どういう流れか忘れたけれど

kissyou氏と通話している際に

イリヤの空UFOの夏」が前から気になってるという話をしたら

「俺持ってるから貸すよ」と本を貸してもらえる事になった。

しかしこのタイトル、空と夏がごっちゃになって凄い覚えづらい。

(未だに正確に記憶していない)

その際に「砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない気になってるんだけど

読めてないんだよね」という話をしたら

何とそちらもkissyou氏が持っているとのこと。

その時彼は

「砂糖菓子はね・・いい・・・」

と言葉少なにしみじみと語っていたので

何となく嫌な予感がした(彼は鬱ストーリーを好むので)

僕はamazonほしい物リストに2009年からこの本を追加していたほど

前から気にかけていた本ではあるんだけど

ラノベ全盛期の頃に名前をチラチラ聞いていたので)

どういう話かは断片的にしか把握していなかった

が、どうもネタバレが致命的になる作品だろうという予感はあった。

 

そしてイリヤと砂糖菓子、その他色々と本を貸してもらい

イリヤが4巻で構成されているようなので

まずは単発の本から片付けていこうと

早速砂糖菓子を読み始めた次第。

なので、しばらくはkissyou氏に借りた本の感想文が続きます。

 

主人公は山田なぎさという中学生の女の子。

父は既に亡くなっていて、母親がパートで家計を支えているという

貧乏な家庭に生まれ育っています。

イケメンで聡明という優秀な兄がいて

一時期、なぎさは兄が貧困生活から抜け出させてくれると期待していたが

急に引きこもりになってしまった挙句

通販でいらない物を買いまくるので

ただでさえ厳しい家計を圧迫しているという。

しかし、なぎさはそんな兄を煙たがる事はなく

美しい生き物を秘密で飼っている気分と表現しています。

この家庭事情はなぎさの人格形成にかなり影響していて

生活に必要な物(作中では実弾と表現される)以外とは関わらない

というポリシーを持つ現実主義者で、ニヒルな性格をしており

自分は恵まれない子どもであると自認している。

 

そしてある日、主人公の通う学校に転校生がやってくる。

海野藻屑(うみのもくず)というとんでもない名前の持ち主で

自己紹介を促された海野藻屑は

手にしていた2リットルのミネラルウォーターを勢いよく飲んでこう言う。

 

「ぼくはですね、人魚なんです」

 

「ぼくがここにきたのは、人間界が知りたいからです。

人間は愚かでお調子者で寿命も短くて

じつにばかみたいな生物だと波の噂に聞いたのできちゃいました。

みなさん、どうかどんなにか人間が愚かか

生きる価値がないか、みんな死んじゃえばいいか、教えて下さい」

 

 

涼宮ハルヒ以来の衝撃である。

 

実際、涼宮ハルヒシリーズの翌年に発表された作品みたいなので

影響を受けている可能性は大いにある。

そういえばこの頃は自己紹介で変な挨拶をするというのが

他作品でも流行っていたような気が......

そんな涼宮ハルヒばりのイカれた挨拶をぶちまかした

海野藻屑の父親は、海野雅愛という昔流行った歌手だという噂が流れる。

「人魚の骨」というデビュー曲は未だにCMで使われるほど人気が高いとか。

しかし、本人は父親ではないと否定する。

その自己紹介にクラス中がドン引きする訳ですが

父親が有名人であるという噂と、本人の容姿が優れている事から

他クラスの生徒にもチヤホヤされるようになります。

が、自己紹介でも伺えるその攻撃性の高い物言いから

徐々に海野藻屑を取り巻く生徒の数は減っていく。

 

一方、実弾にしか興味がないなぎさは

海野藻屑に対し「この子の父親は有名人で、家が裕福で羨ましいな」

ぐらいの感情しか持たず、自身とは逆に

空想の世界に生きているような藻屑に関心を示さない。

藻屑を取り巻く周囲の様子も冷めた目で眺めていたなぎさですが

ある日、藻屑によって投げられたミネラルウォーターを頭にぶつけられる。

怪訝な様子で藻屑を見るなぎさの元に

「いてぇ......」と呟きながら左足を引きずって藻屑が寄ってくる。

藻屑曰く、海を上がって人魚になる際に

魔女のいやがらせで、歩くと痛む不完全な足にされたのだと。

そして、自分の願いが叶わないと泡になって消されてしまうと言い

なぎさに、その願いの内容を打ち明ける。

それは、本当の友達をみつけるという物だった。

なぎさ達が住んでいる町には10年に一度の大嵐がやってきて

次の大嵐の日までに本当の友達が見つからないと泡になってしまうと......

実は、漁師だったなぎさの父親は、以前町を襲った大嵐によって亡くなっていた。

 

それ以降、なぎさに絡むようになる藻屑ですが

空想の世界に生き、ブランド物で身を包んだ藻屑は

現実を直視するしかない、自身の境遇の恵まれなさを

浮き彫りにさせるような存在で......というのが大体のあらすじ。

 

主人公の家が貧乏で、自衛隊に入隊しようとしているという境遇が

若干自分と被る(ボクの場合は学業成績の影響も大きいですが)のと

なぎさの兄が引きこもりで通販でいらない物を買いまくるというのも

ボクに近いなと感じる所があり、色々と自分と重なる部分が多かった。

原作はライトノベルなんですが

一般文庫としても発売されているようです。

ボクの貸してもらったのはライトノベル版の方。

思えば、ラノベ全盛期の頃には全然読書習慣なんて無かったし

ボクが読んだ事のあるラノベは、キノの旅ぐらいだった。

表紙をめくると飛び込んでくるカラーイラストを目にして

そういえばラノベってこんな感じだったなぁ......と少し懐かしい気持ちになった。

 

そして、これがラノベで出版されているというのは結構大きくて

藻屑のキャラ設定が嘘か本当か判別しにくいというのがあります。

ラノベなら全然ありそうだけど、一般文庫だと考えづらいし。

物語の結末は1ページ目に既に書かれているんだけど......。

最初に結末を書き、なぎさが誰かと山を登りながら藻屑の事を回想し

その経緯を描写していく倒叙ミステリーのような作品になっています。

結末が分かっていても、藻屑の正体があやふやなので

本当にこの結末になるんだろうか?という

思いを抱きながら読み進める事になるし

結末を知っているからこそ感じる心情というのがある。

構成の妙みたいな物を感じる作品でした。

イラストの淡いタッチも作品の雰囲気に合っていてよい。

 

そして、これを社会人になる前の当時の自分が読んでいたら

今とはまた違う心情に至ったろうから

もっと早く読めば良かった......となる作品でもありました。

タイトルにもなっている「砂糖菓子の弾丸」とは

主人公山田なぎさが求めている実弾とは逆に

現実に何も作用せず、溶けて無くなってしまうような物の事であり

これが思春期独特の感受性や感性だったりに当てはまる。

ちょうど読み終わった頃ぐらいにTwitterで目にした

にゃるら氏の解説が優れていたので掲載したい。

 

 

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あと検索していて見つけたこの感想も良かったです。

 

 

 

 

読み終えてしばらくも心の中に余韻というか

何か痕跡を残されるような作品だった。

自分の好きな小説ベスト1である歯車の順位が

変動する事はそうそう無いと思っていたけれど

歯車と変えても良いな......と思うぐらいで

正直ボクは読んでいて電車の中で泣きそうになってしまった。

しかし、昔は現実の事でもフィクションの事でも

何かに直面して泣くなんて事はまず無かったのに

最近涙もろくなっている気がして

個人的に一番歳をとったなと感じる部分でもある。

ウマ娘2期も2話と最終話でこみ上げてきた)

 

たちまち漫画版も買ってきた。

ほとんど原作に忠実だったんだけど

結末の表し方が漫画版だと若干ぼかされてるなって感じがしました。

ページに色がついていて、表紙も洒落ているし

絵柄も少女漫画寄りなので、全体的にオシャレな雰囲気が漂っている。

手元に置いておきたい本って感じで漫画版も良かったですね......。